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高知地方裁判所 平成6年(ホ)91号 決定 1994年10月25日

被審人

有限会社さくらハイヤー

右代表者代表取締役

山本良守

右代理人弁護士

隅田誠一

主文

一  被審人を過料五万円に処する。

二  手続費用は被審人の負担とする。

理由

一  本件救済命令と発令前後の経過

本件記録によれば、以下の各事実を認めることができる。

1  被審人は、一般旅客自動車運送業等を目的とする有限会社であって、後記救済命令申立て当時、約五〇名の従業員を擁し、二四台(うち小型車は一四台)の車両を保有していた。

2  全国自動車交通労働組合連合会高知地方本部(以下「組合」という。)は、高知県内のタクシー・ハイヤー等旅客運送業に従事する労働者が個人加盟して組織する労働組合であるところ、組合は被審人会社にも桜分会を置き、後記救済命令申立て当時、一三名の同社従業員がその分会に所属していた(以下、同分会所属の組合員を単に「組合員」という。)。

3  被審人と組合との間では、かねて人工衛星を利用した新たな無線配車装置の導入方法やその後の右装置利用による無線配車状況をめぐり組合員に対する差別的取扱いがあったのではないかなどと紛争が生じていたところ、高知県地方労働委員会は、右紛争に関し組合の申立てた高労委平成五年不第三号不当労働行為救済申立事件につき、平成六年一月三一日、左記内容の救済命令を行い(このうち、<1>の命令を以下「本件救済命令」という。)、同命令書は、同年二月二日当事者に交付された。

<1>  被申立人(本件被審人)は、申立人(組合)の組合員に対して、無線配車に係る不利益取扱いをしてはならず、かつ、これにより申立人の運営に支配介入をしてはならない。

<2>  被申立人は、申立人に対し、下記の文書(省略)を本件命令書写しの交付後速やかに手交しなければならない。

これに対し被審人は法定の期間内に再審査の申立てや取消訴訟の提起をしなかったため、右救済命令は同年三月四日確定した。

4  その後、高知県地方労働委員会は、労使双方からその後の本件救済命令の履行状況につき意見を徴した上、平成六年六月二日開催の第四四六回公益委員会議において、被審人が本件救済命令に従っていないと判断し(前記救済命令中<2>の点は直ちに履行された。)、労働組合法二七条九項、労働委員会規則五〇条二項に基づき、同月七日当庁に対しその旨の通知をした。

二  本件救済命令違反事実の存否

1  判断の方法

被審人が個々の従業員に対する無線配車(以下、単に配車というときは人工衛星利用による無線配車を指すものとする。)に関し意図的に差別的な取扱いを行わなくとも、個々の従業員(以下、単に従業員というときはタクシーに乗務する従業員を指すものとする。)の勤務条件・労働意欲・営業地域の守備範囲等その他諸々の要因によって―組合員か非組合員であるかを問わず―結果として個々の従業員ごとに配車を受ける回数にかなりの程度格差の生じて来ることはやむを得ない事態であるから、本件のように組合全体に対する差別的取扱いの存否が争点となっている場合においては、個々の従業員の勤務条件・配車回数等の差異は捨象して、組合員全体として配車を受けた回数の変化や、これと従業員全体に対する配車の回数等を対比検討するなど、統計的数値の利用による大量観察の方法により、その判断を行うのが相当である。

2  従業員全体の配車回数等

そこで、このような見地から、まず本件救済命令発令前後を通じ従業員全体に対する配車回数等に変化があったか否かについて見るに、被審人提出の資料(運転日報に基づき算出したもの)によれば、平成五年一二月から平成六年六月までの全配車回数及び一乗務員一日当たりの配車回数は次の表(78頁参照)のとおりである。

これによれば、各月ごとに多少の増減はあるものの、従業員全体の配車回数には本件救済命令の発令前後を通じ特段の変化はなく、ことに従業員全体の一乗務員一日当たりの配車回数は、概ね七~八回であることが窺われる。

3  組合員の配車回数等

他方、組合員全体の配車回数を見ると、まず、当裁判所が被審人から提出を受けた組合員の運転日報に基づき各組合員ごとの配車回数等を一覧表の形に整理したものが末尾添付の各一覧表(略)であり(なお、各表中空白部分は勤務をしていない日を示しており、*印部分は、勤務していることは認められるものの運転日報の記載が不明確であるため、配車回数が把握できないことを示している。)、これを更に前記従業員全体の配車回数表と同様に整理すると次のようになる(なお、組合員のうち斉谷勝は無線配車の回数を全く記載していないため、同表は右斉谷を除く他の組合員全体の配車回数を整理したものである。)。

これによると、平成六年二月と三月は、本件救済命令発令後であるにもかかわらず、発令前の平成五年一二月、平成六年一月と比して配車回数・一乗務員一日当たりの配車回数ともに全く変化のない状態であったと評さざるを得ないが、被審人が高知県地方労働委員会からその後の救済命令履行状況につき意見聴取を受けた(平成六年四月四日被審人は高知県地方労働委員会に対しその意見書を提出している。)後の同年四月以降は従前に比してその配車回数は飛躍的に増加し、配車回数・一乗務員一日当たりの配車回数ともに平成五年一二月から平成六年三月までのそれの倍近くに増加していることが認められる。

従業員全体の配車回数等

<省略>

組合員の配車回数等

<省略>

4  判断

そこで、以上2、3の事実を対比検討して判断するに、(1) 被審人は、本件救済命令を受けた後も、約二か月間は組合員に対する従前の差別的取扱を何ら改めなかったと認めざるを得ないし、(2) その後の平成六年四月以降は被審人も組合員に対する配車回数をかなり増加させつつはあるが、従業員全体に対する配車回数と比較した場合、一乗務員一日当たりの配車回数はまだ半数以下にとどまっているのであって、これはなお顕著な差別的取扱いであるといわざるを得ないのであって、これらを総体として考えた場合、現時点でも、被審人は本件救済命令に違反し、組合に対し無線配車に係る不利益取扱いを継続している判断せざるを得ない。

なお、この点に関し、被審人は、組合員に対する配車回数が少ないことにやむを得ない理由があるとして種々の事由を主張しているが、これらはいずれも本件救済命令発令前から存する事情であって、高知県地方労働委員会はこれらの事情や主張をもすべて参酌の上、なお配車に関する差別的取扱いが存したと理由中で認定して本件救済命令を発し、これに対し被審人も何ら不服申立ての措置を講ずることなく本件救済命令を確定させているのであるから、右被審人主張の事由は本件救済命令に違反していることを正当化ならしめる事由として認めることはできない。

三  過料額の量定理由

以上により、当裁判所は被審人を過料に処することとするが、前記のような違反態様、ことに被審人は本件救済命令発令後約二か月間は全く同命令に従っていなかったものの、平成六年四月以降は―なお不十分であるとはいえ―組合員に対する配車も顕著に増加させつつあることを考慮し、その他本件記録上窺われる一切の事情を総合勘案して、主文の過料額を量定するに至った次第である。

よって、主文のとおり決定する。

(裁判官 杉田宗久)

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